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(え、えっと……ど、どうしよう……)
陽翔の両親が代わる代わる謝罪するために、百子の狼狽はピークに達した。確かに非は陽翔の両親にあるのだが、ここまで丁寧な謝罪を受けるのは百子の身に余る気がする。こそばゆいような、全身がむずむずするような気持ちを味わっていた百子だったが、陽翔がテーブルの下から手を握ってきたので、それに励まされるように、しょんぼりとしている二人に向かって言葉を紡いだ。
「正直に申し上げます。私自身は遅刻されたことや出迎えが無かったことは気にしておりません。少しだけ寂しいとは思いましたが……」
「どこが気にしてませんだよ。思いっきり気にしてるじゃねえか。百子の場合は嫌われてるとかそんな不安もあっただろうが」
陽翔の呆れた声が図星を言い当てたために、百子は明後日の方角を見る。その様子が彼女の不貞腐れた心情を言葉よりも多く語っていた。
「百子さん、今ここで言うと言い訳になってしまいますが私も正直に言います。私は百子さんが嫌いな訳ではありません。最初からね」
百子は鳩が豆鉄砲を食ったようにぼんやりとしていたが、陽翔は声を荒らげた。その拍子に4人分のグラスの麦茶が揺らぎ、百子は陽翔がテーブルに手を勢いよくついて立ち上がったのだと遅まきながら理解する。
「母さん! 百子に失礼な態度を取った時点でそれは言い訳だろ! 何を今更……!」
彼の鋭い声で我に返った百子は、彼の袖を引っ張って激しく首を横に振った。
「陽翔さん、お願い。今は何も言わないで。私は陽翔のお母様とお話してるの」
陽翔は舌打ちをせんばかりに裕子を睨んでいたが、百子の言葉で無理矢理心を鎮める。諦めたように椅子に座り直した陽翔は、すぐさま百子にテーブルの下から手をぎゅっと握られ、そのまま手の甲を撫でられていた。
「あの、最初からとはいつからのことでしょうか?」
「百子さんをここで初めて見た時からです。私の活けた桔梗を熱心にご覧になってたでしょう? あんなに食い入るように私の作品を熱い目で見つめられたことなんて無かったもの。それに、貴女は礼儀正しくもあり、真っ直ぐですから。ちょっと無謀な所もありますが、それを含めて私は百子さんを好ましく思っています……それなのに意地悪をしてごめんなさい」
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