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百子が目を開けると、見慣れぬクリーム色の天井がぼんやりと飛び込んできた。そっと体を起こそうとすると、額から何かが落ちてそれを見やる。自分の体温で温くなった濡れタオルだと分かった瞬間、百子は完全に眠気が吹き飛んでしまった。
(そうだ……私……昨日は熱で家に帰ったら弘樹の浮気相手がいて……繁華街にいって……変な輩に絡まれて……東雲くんが助けてくれたんだっけ……)
のろのろと体を起こした百子は、額に手を当てる。昨日のような熱っぽさと胃の腑の気持ち悪さもどこかに飛んでしまったようで、久々に晴れやかな朝を迎えた気分である。頭痛は未だに収まってはいないが。
(東雲くん、どこなのかしら? 看病と泊めてくれたお礼を言わないと)
キョロキョロと辺りを見渡すと、机に大きなデスクトップパソコンがあるのが目を引いた。しかしその周りには雑然と積み上がった分厚い本やCDやラジカセがあったり、机の隣にはボストンバッグや縦長の大きなカバンもいくつか置いてある。パンパンになっているそれらは置いてあるというよりは部屋を占領していると言った方が正しいかもしれない。そして床には何やら書き散らした紙が散乱していた。辛うじてベッドからドアまでの空間は紙が無いものの、そこから少しでも外れたら落ちてる紙に足を取られて転びそうだった。
(なんか意外……東雲くんって片付けも得意そうだと思ってたのに)
陽翔は大学の同じゼミのメンバーだったが、クールで堅実であり、ゼミで最も優秀な成績を収めていた。一時期は首位争いを彼としていたが、いつも百子は僅かな差で負けてしまうので悔しい思いをしていたのだ。彼は百子にとっては良きライバルでもあったが、勝てたのは一度だけだった。
(懐かしい……でもあの頃とは遠く離れすぎてる。私も東雲くんも、もう30歳になるもの……)
百子はどこか遠い目をしていたが、部屋に陽翔がいないことに気づいたので、彼を探そうとベッドから紙に足を取られないよう気をつけて降りる。頭痛はまだ容赦なく百子を殴っているが、陽翔に事情を話さなくてはならないからだ。理由も聞かずに看病してくれたことに感謝もしなくてはならない。
そう思ってドアから出た直後だった。
百子は陽翔が全裸でバスタオルで髪を拭いているところに出くわしてしまった。
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