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「なんでおれが人の仕事探しに」
「そっちじゃないよ。終わる方の終活」
おわるほうのしゅうかつ。
何度も復唱してその意味を理解したとき、喉で鳴った相槌に彼女は笑っていた。
「私もうすぐ死ぬんだ。だから今、終活してるの。その一つとしてお葬式のセルフプロデュースをしててね。お葬式に星空の写真を飾りたいから、星空の写真撮ってくれるカメラマンを探してるんだ」
白い水彩は凪いでいた。生きるという希望に溢れていたり、死ぬという絶望に打ちひしがれていたりする様子はなく、ただ自分の身に降りかかる現実をありのまま受け止めていた。
そのおいらかさに、おれは既視感を感じた。
「急に死ぬだの終活だの言われてもびっくりしちゃうよね」
「……びっくりはしてない」
「たしかに、そんな感じはする」
空が薄花色になる。
「こういうの二回目だから」
東の地平線に橙が走る。
「そうなんだ」
彼女もあまり驚かなかった。
「なら、なおさらちょうどいいや。阿智村って知ってる?」
その名前におれは息を呑んだ。
「十二月、そこでふたご座流星群を見たいんだ。その写真を撮ってほしいの。無償じゃないよ。できるかぎりの見返りはする。君にお願いできないかな」
爽籟は少し冷たく、み空は東雲色に染まる。
おれはみ空にレンズを向けた。ファインダー越しの世界に、このまま時が止まってしまえばいいと思う。
きっと、あの村に行っても同じことを思う。そして、今以上に茫然自失する。
乾いたシャッター音が切れる。
「少し、考えてもいいかな」
「もちろん。一週間後の夜明け前にここで待ってる。八幡茜、十九歳です」
「相模昴。大学二年生」
「あの星団と同じ名前だ」
彼女は西の空を見た。
曙は星を溶かし、オリオンの輪郭を朧気にさせる。
「オリオンの右上の星座の二つある星団の一つ、プレアデス星団。和名、すばる。『統ばる』は、集まって一つになるっていう意味があるの」
「詳しいね」
「星好きは伊達じゃないからね。じゃあ、また来週。いい返事を期待してるよ」
おれの別れの挨拶も聞かず、彼女はそそくさと帰った。急いでいるようだった。
街が暁光に燃えていく。東雲が微かに揺らめく。おれは西の空を見て、オリオンが消えるまで朝に焼かれた。
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