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少年の掌の上の火球は、いびつな形をしている。でこぼこしたそれを、少年は顔を真っ赤にして押し縮める。しかし、火球はそのままくしゃりと潰れた。
魔術師学校の実習室。2年生の期末試験の追試会場に、ケインはいた。
火球の大きさを調整して、その温度、ひいては攻撃力の高さを高める。これは、攻撃魔法の基本中の基本の技術だ。比較的、生徒の試験の評価の穏やかなメイ教官でも、さすがにこれができない生徒を、合格させることはできない。
少年、サヤギは、落第の危機に追い込まれていた。
「うーん、分かった。そしたらさ、砂時計の上半分をイメージしてみて」
しばらく様子を見ていたケインは、サヤギに声をかける。
サヤギの掌の上の火球は、円錐状に形を変える。
「砂が下に落ちてしまわないように、くびれた部分に栓をする。そして、上から砂をぐうっと押してごらん」
炎の円錐の先端の輝きが強まり、赤から青へと徐々に色が変わっていく。
「そう。そのまま、とがった部分で使い魔を突きさすんだ」
ケインが出した使い魔に向かい、サヤギの掌から火球が飛ぶ。それは、ふわふわと浮かぶ使い魔を刺し貫いた。
「よし、できたね」
サヤギは頬を真っ赤にして荒い息をしている。自分が成したことに、興奮が抑えられない様子だ。
「この手技の根本の目的は、圧力を変えて火球の温度を上げることにある。別に、球体である必要はないんだよ。技を学ぶときはいつも、その本質がなんであるか、考えながら行うことだ。そうして、自分に合ったやり方で、技を自分のものにするんだよ」
ポンと少年の頭に手を置き、ケインは微笑む。
「おめでとう。追試は、合格だ」
少年の目が輝く。この子は伸びそうだな、ケインは思う。
その時実習室に、ふいに人影が現れた。
「……不法侵入だよ」
サヤギを背中に回し、ケインは目を眇める。
黒ずくめの侵入者は、3人。顔を隠しているが、魔術師であることは間違いない。いずれもそれなりの実力がありそうだ。
「ケイン・アシシュガ。我々にご同行願いたい」
「……どこに行こうっていうの。さすがに、無礼なんじゃない」
3人か。ケインはゆっくりと視線をめぐらす。やってやれないこともないかもしれないが、サヤギの安全も考えると、ここで大立ち回りをするのは得策ではない。3人からは、特に殺気は感じない。
「アニサカ家の屋敷へ、お越し願いたい」
「……分かったよ」
何で普通に呼び出さないんだ、あの爺さん。ケインは顔をしかめる。
少年に、メイ教官への伝言を頼んで、ケインは3人と、実習室を後にした。
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