傀儡の王

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「『傀儡(くぐつ)の王』と私たちの交戦の詳細について、君たちに話しておきたい」  ある冬の夜、彼の自室に集められた面々、ベス、リア、ケイン、カイトに、ナギは静かに切り出した。 『傀儡(くぐつ)の王』との、最後の交戦での生存者はシュナギ・ユシュツカのみ。その詳細は、最高機密として国王および魔術師筆頭2家の当主のみしか知るものはない。  『傀儡(くぐつ)の王』と、ナギの父である前ユシュツカ家当主との因縁の始まりは定かではない。傀儡の王はユシュツカ家の血を引く異形の者であるとも、遠くユシュツカ家の祖先に討伐された魔の者の末裔であるとも言われている。  いずれにせよ、前ユシュツカ家当主が王宮最高魔術師に在位していた30年前、その者は突如として現れた。その者とユシュツカ家およびアニサカ家の魔術師により、5回に渡る激しい戦闘が繰り広げられた。両家の精鋭の魔術師の多くはその戦いで斃れ、今なおその者の力を押さえるために、現ユシュツカ家当主シュナギ・ユシュツカの命は日々削られている。 「10年前、最後の戦いでの奴の狙いは当初から、当時すでに王国最強の魔力を有していた、私だった」  ナギは淡々と語り始める。  『傀儡の王』の呼び名の由来は、その異能にある。その者に自分の姿を完全に模した人形、傀儡(くぐつ)を作られ握られた者は、発動した魔術、使用した魔力はすべて、傀儡の王に奪われ我がものとされる。  最後の戦闘の時、父と婚約者の背骨と四肢を捩じられたナギは、一瞬の隙を突かれ傀儡の王に自らの傀儡の作成を許した。父が最期に放った転移魔術により、ナギと彼の婚約者、マーガレット・アニサカは傀儡の王の支配領域より逃れたが、マーガレットはまもなく命を落とした。ナギは、自らの魔力を傀儡の王に奪われることを避けるため、「腐食の呪い」を自らにかけ自分の魔力を封じた。  傀儡の王は、これまで自分と自らが作り出した傀儡の在りかである亜空間、「支配領域」より出てきたことはない。しかし、怨霊や精霊を使い、繰り返しユシュツカ家およびアニサカ家の当主および血縁の魔術師に攻撃を仕掛け続けている。  これが、ナギの話のあらましだった。  重苦しい沈黙が場に落ちる。 「先の戦闘より10年。私が奴の差し向けた怨霊と交戦し、不可侵領域へ居を移してから6年余りになる。皆の力を借りて、今私ができる準備はすべて整えた」  ナギの声は淡々としていたが、その瑠璃色の目は燃えていた。 「私も、お供いたします」  申し出るケインに向かい、彼は静かに言い放つ。 「傀儡の王の支配領域に足を踏み入れられるのは、ユシュツカ家およびアニサカ家の血縁の者のみ。私とエリザベスが、奴との交戦に臨むことになる。……リア、ケイン、カイト。あとを頼みたい。今日の会合は、それを頼むためだった」
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