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「お前、どうしてリアに告白したんだ」
麦の蒸留酒を一口含んでから、低い声でカイトはナギに尋ねた。
ナギの書斎には、月あかりが斜めに差し込んでいる。口を引き結んだナギの硬質な横顔を、まだらな銀の光が照らしだす。
「黙って去るのとどちらが良かったというんだ」
いつもの静かな声で、ナギは答える。
「私が彼女に与えられるものは、すべて与えた」
カイトの目に、どこか必死にリアに愛をささやくナギの姿が浮かんだ。
「勝手だな」
カイトは息をつく。
「さっきの話、嘘なんだろ」
ナギの眉がピクリと震えた。
「どうせ勝手を言うなら、ついて来てくれって言ってやれよ。分かってるんだろ。あの子が、どうして魔術師になったのか」
「……それは、できない」
「それならどうして、あの夜、あの子に呪いを解いてくれと言ったんだ」
初めの日、あの子を、無理やりにでも追い返せばよかった。カイトはつぶやく。
「あの時は、それが私の希望のすべてだった。彼女の浄化の炎は、特別なものだ。呪いを解いても、侵された体はそのまま残る。だが、彼女の炎は違う。再生の炎だ。あの夜怨霊に侵されたお前が今こうして無事でいるのも、そのためだ」
ナギの瞳が閉じられる。
「……だが、そう、勝手だな。私は今、彼女に、何としても生きてほしい」
再び開いた瞳には、強い光があった。
「私の体の中では、今も腐食の呪いは進んでいる。傀儡の王を倒さなければ、私はもう長くない。宿願を果たすのは次代に託すつもりだったが、今の私は、万に一つの可能性に賭ける」
瑠璃色の燃え上がる瞳が、カイトをまっすぐに見据える。
「カイト。君に今日の会合に加わってもらったのは、彼女を支えてほしいからだ。もし私が死ねば、ユシュツカ家で傀儡の王について知るものは、一人もいなくなる。記憶を継ぐ者が必要なのだ」
「まさか」
カイトの目が見開いた。
「彼女と、……彼女の子供を、支えてほしい」
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