決戦(1)

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 「代人術」は、ユシュツカ家の秘伝、口伝の術である。術者は他人や物、精霊に置き換わりその者の術および魔力を使用することができる。  ただし、術者にも置き換わられた対象者にも、相応の危険が伴う。取って代わられた者は、廃人になることもままある。また術者も、相手から抜け出せなくなる、あるいは、異常な精神高揚から術の抑えが効かなくなり、仲間により打ち取られた事例もあったとされる。  ナギが人生でこの術を使ったのは、これまで一度だけ、リアの身体で怨霊と戦った夜のみだった。 (自分の魔力を使わず、有効な技を出すにはこれしかない)  ナギは早い段階から、代人術による形代での戦闘を決めていた。  傀儡を取られているナギは、自分の魔力を使えないだけではなく、傀儡の王に発動しようとする魔術は、全く同じ魔術で傀儡に相殺されてしまう。ナギからではなく、形代から術が出る形を取れば、相殺を防げるのではと考えていた。その考察は的を得ていたが、出会い頭を狙って放った一撃必殺の技は、命中することはなかった。 (奴の純粋な魔術師としての腕も、上がっている)  この10年、傀儡の王の魔力は減るどころか大きく増していた。スピード、そしておそらく技の威力も、想定よりも高いであろうと考えざるを得ない。  1年近くをかけ相応の魔力を封じた形代を作ったが、十分と思えたものは、4枚のみ。 (あと、3枚。すでに手の内の見破られている術で、奴に傷を負わせられるか)    ナギは息を整えながら目を眇める。
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