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ふいに空気が動き、ナギの右側から銀色の光がほとばしった。無数の水の針が傀儡の王に殺到する。その間を切り裂くように、渦巻く水流が突っ込んでいく。
「チイッ」
傀儡の王が一歩飛びのく。その足元に、岩の槍が突き上げる。
「小娘が」
水球の中から、膝蹴りと拳が男の手元の傀儡を狙う。男の手元から黒い糸が張り、わずかにかすめた水の塊はナギの隣へ飛び戻る。
「ベス、焦るな」
微かに、血の匂いがする。ベスがあの糸でどこかを切り裂かれている。毒消しの魔術は十分に施してあるはずだが、ナギは唇をかむ。
「大丈夫、かすっただけです」
彼女の息は乱れていない。
水球が動き、細かな水しぶきとなり領域全体へ拡散する。ふいにそのしぶきに炎がまとわりつき、高温の霧となり男を襲う。
男の身体から、黒い帯が水球へと延びる。からめとられる直前に不意に崩れたその中に人影はなく、男の足元をすくう足蹴りが襲う。
そのまま回し蹴りは男の脇腹を捕える、直前に男の姿は掻き消える。
ナギは目を閉じ男の気配を負う。
霧を切り裂き、形代が男の左腕をざくりと切る。
しかしその手元を見た時ナギは凍り付いた。
男の右手には、二つ目の傀儡が握られていた。それは、ベスの姿をしていた。
『ベス、止まれ』
すかさず形代から念を送る。霧の中のどこかで、ベスが気配を殺している。
(……終わりだ)
ベスの攻撃は、ナギにもはっきりと姿が捉えられない見事なものだった。しかし、傀儡の王は彼女の姿を正確に見て取り傀儡を作ったのだ。
(技のスピード、精度が格段に違う。彼女の傀儡を握られた以上、手は尽きた)
3枚目の形代をくわえながら、ナギは胸元に手をかける。そこにある最後の形代には、初めから術が仕込んである。
それは、ベスを領域外へ送り出す転移魔術だった。
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