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ケインの母親が、ケインを置いて恋人と出奔し、ケインが孤児院に入ったのは6歳の時のことだった。そのことに、ケインは特段恨みはない。親に売られる子供は多いが、彼の母親は、食うや食わずの貧しい暮らしでも、自分を6歳まで育ててくれた。男にはだらしなかったが、苦労はあっても子供に当たることもなく、ケインは卑屈になることなく育った。今、教官という仕事をしていて、それは得難いことであったと思っている。
母親と暮らしていたころ、近所の悪ガキ仲間としてつるんでいたカイトは、ケインが孤児院に入ってからも度々家に誘ってくれた。10歳の時、そこでたまたま出会い、ケインの魔術の才能を見出してくれたのが、ナギだった。ケインはユシュツカ家の遠縁の家の養子となり、魔術師学校に入学した。いまでも彼は、自分の出自を隠してはいない。
「お前に娘はやらん」
いや、娘はものじゃねえし。ケインは思う。でも、親父さんの言いたいことも、分かるよ。
魔術師筆頭2家をはじめとして、伝統的な魔術の名家には、それぞれに確立された魔術理論と、秘伝の技があり、それを後世に継承する義務がある。
教官として魔術師の卵に数知れず接してきたケインには、よく分かる。自分やリアのように自分の素質のみで魔術の道に入ったものと、そうした血筋の子供たちとでは、術の根本の構造が違う。
この老人の頭を占めているのは、血統主義的な価値観と、娘が育ちの違う者と連れ添うことへの親心での心配と、半々といったところだろう。
(まあ、あの人みたいに、思いっきり好き放題やる人も、いるにはいるけど)
銀髪碧眼の現王宮最高位魔術師の姿を思い出し、ケインは苦笑いする。死にかかっているんだからわがままを許せと、周りを黙らせて自由恋愛で結婚した。あのくらい突き抜けられたら、エリザベスも楽だろうにな、と考える。
「子捨ての血はいらん」
その言葉に、ケインはすう、と息を吐いた。
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