ムサビの人たち

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ムサビの人たち

 芸術の分野にはまったく疎い私ですが、ムサビという言葉にはどこか憧れのようなものを感じます。  ムサビ――つまり武蔵野美術大学ですが、ここ出身の著名なクリエイターは数知れず。  それで思い出したのは、高校の頃、友達と東京の大丸に「笹倉鉄平」という画家の個展を見に行ったことがありました。  この笹倉という人は光の情景画家ともいわれるくらい綺麗な絵を描くのですが、当時の僕は(記憶違いでなければ)シルクスクリーンという方法で版画を描く人、という認識でした。何かのポスターを見て「わあ!」と惚れ込んでしまい、個展をやるというので大丸まで行ってみたのです。  絵心なんてまったくないし、美術自体にもさほど興味はなかったのですが、この個展だけは行きたかった。一緒に連れていかれたエージロー(小・中の同級生)は、「何で俺まで」という気持ちだったと思います。  この笹倉さんは、ムサビの人です。  しかし、これがメチャクチャ恥ずかしい思い出になってしまいました。自分があまりにも都会に疎かったので、電車を降りたはいいものの、人の多さに戸惑い、そして道がぜんぜん分からなかった。  それだけならともかく、大丸の読み方が分からず、駅の交番で「おおまるってどこですか」と聞いてしまったのです…!  小学生のエピソードならまあ可愛くもあるが、高校生なので、おまわりさんもちょっと引いたことでしょう。  それはともかく、この個展で僕は、彼の画集を1冊買って帰りました。この笹倉さんの絵はホントに良いので、知らない人は是非ネットで検索してみてください。  さて、この備忘録で折に触れ名前を挙げているのが漫画家の吉田秋生なのですが、僕が一番好きな作家で、この人もムサビ出身です。  そしてリリー・フランキーやみうらじゅんなど、クセ者も多い(でも好き)  美大なのでミュージシャンはさほど多くありませんが、スピッツの草野マサムネはここ出身のようです。スピッツは世代ドンピシャで、よく聴いて、よく歌っていました。「チェリー」「楓」「冷たい頬」「ロビンソン」「愛のことば」「夏の魔物」…好きな曲が多い。  それからレベッカというバンドが好きで、いろいろ聴いていましたが、1991年に解散した後、ボーカルのNOKKOが最初に出した「人魚」という曲が、最初は変わった曲だなーと思ったのですが、本当の海の中にいるようなその音が、すごく好きになりました。  この曲をアレンジしたのがムサビ出身のテイ・トウワで、この人はクラムボンの原田郁子や、ピチカートファイブの野宮真貴にも作曲やアレンジで関わっています(この人選!)。坂本龍一に認められ、細野晴臣のトリビュートに参加し、高橋幸宏+水原希子と一緒に曲を出したりしています。何ていうか、すべてが "アート" って感じで、自分のような素人にはうまく説明すらできないのですが、印象的なカッコよさがありましたね。  さて、この高橋幸宏もムサビの人です。この名前を聞くと、もちろんYMOもそうなのですが、メンバーのすごさという点で、サディスティック・ミカ・バンドが頭に浮かびます。  このバンドはフォーククルセダーズの加藤和彦、メリージェーンで有名なつのだ☆ひろ、ギタリストの高中正義というワケわからん豪華メンバー。そこにこの高橋幸宏や、秋元康とのコンビのイメージが強い後藤次利まで参加。名前こそ変わりますが、解散後も坂本龍一やユーミン、小田和正、財津和夫まで加わって曲を発表したりと、ムチャクチャなバンドです。「タイムマシンにお願い」という曲が超有名で、歌詞から音から全部が初めての世界観って感じで、すごくハマって何度も聴いたのを覚えています。  ちなみにそのユーミンはタマビ(多摩美術大学)ということで、やっぱり芸術家なんだなあと実感しますね。  ところで芸術というものには、「わかる人にはわかる」「わかってもらえなくて結構」というような、どうも人を寄せ付けないような、排他的なイメージがあります。  特に現代アートはまったくわかりません。みんなで示し合わせて「知ったかぶりごっこ」をしてるんじゃないかと勘繰る気持ちすらあります。  しかし「自分の世界」を持っていることには憧れや羨ましさがありますね。その世界が強固であればあるほど…。それが芸術家と呼ばれる人たちの魅力でしょうか。  なお前述の友人(大丸に連れていかれた)エージローは、今はフレンチのシェフになっていて、自分の手で自分なりの世界を作り出す、これもいわば芸術家的な職業ですね。カッコいいです。
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