第四章「取り戻せない時間」

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 学園祭の頃より季節が移り変わり、10℃近く気温が下がり肌寒い陽気となった当日、浩二は羽月のために駅前でチョコレートケーキを買って、上機嫌に待ち合わせ場所の駅に向かった。 「浩二っ!」  待ち合わせ時間には少し早かったが羽月は紺のジャケットと白のTシャツを着た浩二の姿を見つけるや否やすぐさま駆け寄って行った。 「早いな、待ったか?」 「大丈夫、さっき来たところよ」    浩二は肌寒い季節に変わってきたこともあり、待たせてしまうのは申し訳ない気持ちだった。  学園外で久々に二人きりになれた二人。期待に胸膨らませ、気持ちの高ぶっていた羽月はいつもより近い距離に寄り添い手を繋いで、そのまま指と指を絡めあった。 「さぁ、行こうか」 「ええ、お迎えする準備はしてきたから」  ロングスカートをヒラヒラとさせ、嬉しさのあまり羽月は上目遣いで笑顔を浮かべ言った。  普段とは違う女性らしさを見せる羽月に浩二はドキドキしつつ隣で寄り添う。  日頃、後回しにしていた掃除も今日は入念に頑張ったと羽月は機嫌よく話し、二人はアパートへと向かった。  二人きりで歩くと恋人同士であることを否応にも意識させられ、ふいに視線が合わさると互いに言葉にできない気恥ずかしさが込み上げた。  緊張が解けないまま静かな街並みを歩き、アパートに着くと4階までエレベーターで上がって、玄関の前まで到着した。 (さすがに緊張するわね……)    いざ自分の住む部屋の前まで浩二を連れてきた羽月は心の中で思った。  玄関のカギを開錠して扉を開ける。芳香剤の香りがほのかに漂ってくる中、先に羽月が入り、浩二を招き入れた。 「お邪魔します」 「うん、遠慮しないでいいわよ、今日はパーティーだから」  羽月は“二人きり”のと言いかけたところをぐっと堪えた。  少しハイなテンションになっていて、簡単に恥ずかしいことを口走ってしまいそうになる。あまり刺激的な言葉を使うとかえって恥ずかしくなってしまうので、ポンなところを見せないよう羽月は言葉に気を付けたいところだった。  玄関を上がったところでそっと後ろを振り返ると浩二の靴が見えて、本当に家に浩二がここにいるのだという実感が沸き上がった。 「一人用のアパートだから狭いけど、我慢してね」  部屋へと案内する羽月、六畳間の部屋は一人で暮らすにも十分とは言えない。  少し広い台所と通路にある扉の先にあるトイレと風呂場の浴槽が一緒になったフロアがあり、物を仕舞えるクローゼットもある。これ以上欲を言ってはならないと羽月も一人暮らしをさせてもらっている以上分かっていた。  浩二は慣れない様子でキョロキョロと視線を移しながら、羽月の部屋を見渡した。 「思ったより、女の子らしい部屋なんだな……」  浩二は部屋に入ると最初にぬいぐるみが出迎えた。色合いも可愛いものを選んだようなインテリアが並び、そのまま気付いたことを言葉に出した。 「私の雰囲気に合わないでしょ? 自分でも分かってるのよ、だから学園の人を連れてきたことないし……」  羽月は腕を組んで頬を赤くさせ言った。自分には似合わないと思いながらも可愛いものを集めてしまう自分を出来るだけ隠してきた。目の前の浩二にはもう隠す必要がないかと思っているが、未だに学園の生徒には言いづらいことだった。 「別にいいんじゃないか、可愛いところがあっても。俺は好きだけどな、その方が」 「そうかな? それならいいけど。でも、家族以外をこの部屋に入れるのはあなたが初めてだから」  他意はなかったが、特別な関係であることを示唆するような言葉を入れてしまうとゾクっとした感覚をお互いに覚えた。  言葉が言葉だけに顔を見合わせてつい緊張が高まる。 「そうか……、それはまた責任重大だな」  卑猥な想像が頭をよぎり、浩二は返事に困りながらなんとか言葉を紡いだ。 「私も緊張しちゃってるからつい……。  そういうつもりじゃなかったんだけど」 「それはまぁ、部屋に二人きりでいる時点で仕方ないって。」  落ち着かない心地で浩二が羽月のことをフォローするが、羽月には何が正解かは見えてこなかった。  付き合って間もない二人らしく、ぎこちない調子で会話は続いた。
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