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そんな二人に羽月の飼い猫であるマルちゃんが浩二の足に身体をすりすりと寄せてきた。
「おおっ、そういえば、猫を飼ってるって言ってたな。まだ小さくて可愛いな。不意打ちだったから驚いたけど、飼ってるペットがアナコンダじゃなくてよかったぜ」
一度は身構えるように身体をそらした浩二は姿勢を戻し、今度は膝を曲げて姿勢を下げると、冷静に猫を撫でてあやした。
「誰がでっかい蛇をこの狭いアパートで飼育するのよ……」
浩二の失礼にも程がある発言があったので、羽月は間髪入れずに抗議を入れた。
「いや、ボディガード? それか、女帝として君臨するためのワンポイントとか?」
「どういう脳ミソをしてたらそんな発想が出てくるのよ……。
一人暮らしで寂しいなって思うようになってから飼うことにしただけよ。
保健所で保護されていた雑種だけど、猫は実家でも飼ってたから飼い方も分かるし、可愛いから」
羽月は慣れた手つきで猫を腕で抱え上げる。すっかり猫は羽月に懐いていて抵抗する様子もなかった。
猫の登場もあって二人は和んだ雰囲気になり、昼食を食べ終えると、浩二の持ってきたチョコレートケーキも食べ、ゆっくりとした時間を過ごした。
日が傾いてきた頃、羽月の提案もあり、学園祭の時に撮影された映像を二人で肩を寄せ合いながら鑑賞する。
誰にも邪魔されることのない二人きりの空間は想像以上に安心感を与えてくれる。
「みんな楽しそう……、私たちは屋上にいたから全然違う雰囲気の中にいたけど」
大勢の生徒たちがキャンプファイヤーを囲んで踊っている光景を映像で見ていた。
少し懐かしくなってきた思い出の光景、浩二と羽月はこの時、屋上から見下ろす形で見ただけだった。
「俺たちの方がより貴重な過ごし方をしてたからな……。屋上にいたことなんて誰も思いもよらなかっただろう」
地上での光景でも十分にロマンチックに見えるが、学園の中で空に一番近い場所で二人過ごしていたこととは比較にならないだろう。
「あれは……、そうね、頑張った私たちに神様がくれたご褒美ということにしておきましょう」
優しい口調で言う羽月は普段では考えられなかったが、浩二にとっては嬉しい言葉だった。
記録された映像も見終わり、羽月が率先して片づけを始める。
思い出話を語り明かしているだけで過ぎていく時間の早さを実感した。
浩二が先にお風呂に入り、後に羽月がお風呂へと向かうと、浩二は部屋で一人きりになった。
机の上に立てかけてある写真立てが目に入る。
学園祭の時の綺麗なドレスに身を包んだ羽月と自分が映っている。
ついこの間経験したばかりの大切な思い出の一ページ。
自分にとっても、羽月にとっても大切な思い出となっていることが、浩二はたまらなく嬉しかった。
羽月が戻ってくるまで机の椅子に座るか、ベッドに座るかを迷いながら、浩二は椅子に座って、羽月が戻ってくるのを待った。
浩二がアパートにやってきても猫は大人しい様子で、クローゼットのそばに設置しているボアドームベッドの中で丸まっていた。
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