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10.ロッカーの不快指数
入浴時間は、学生寮にしては珍しく夕方から深夜まで許可されている。
どんなに規制をしても、深夜早朝厳寒の水風呂もお構いなしに入る者が、必ず1人や2人存在するので、そうなったのだ。
「…一週間もの間、毎晩こんな事してたのか?」
「毎晩じゃないよ。僕だって風呂には入りたい」
「ここは充分『蒸し風呂』だと思うけどな…」
現在、鹿島と霧島の二人は脱衣所内のロッカーの中にいる。
脱衣所は銭湯のそれに似た造りの板の間で、扉の無いボックスタイプの棚が壁際に並んでいる。
二人が息を殺して入っているロッカーは、平素は清掃道具が収められている観音開きのステンレス製で、中身は現在、鹿島の部屋に隠されていた。
そうして、入浴時間になる前から、2人で潜んでいる。
「脱衣所の中だからねェ、ムレるのは覚悟のうちって言ったのに、そんな格好で来るから…」
言った鹿島はノースリーブのランニングに短パンを履いて、首からタオルをさげている。
まるで皇居の周りか、もしくはどこかのマラソン大会に出場でもするようなファッションだが、この不快指数が高い個室(?)に入るには適切と言えた。
一方の霧島は、鹿島の忠告を聞いて上はノースリーブだが、下にGパンを履いている。
手には木綿のハンカチを持っているが、既にあまり役には立たなくなってきていた。
「早いトコ終わらせて、風呂に入りたい」
「今夜来るって保証はないからねェ。ま、僕が一人で入っていた時よりも、人数が増えた分、不快指数は上がってると思うよ」
「んなら、誘うんじゃねェよ」
「言ったでしょ。一人の張り番は寂しいってさ」
「男二人が狭いロッカーの中でフトモモ擦り合せて何が楽しいんだ」
「しー、静かに」
脱衣所の中で話をしていた学生達が、洗い場に方へ姿を消し、室内は無人と化した。
鹿島が言うには、むしろ学生達が脱衣所から去った時の方が、ロッカー内の音が室内に響きやすいらしい。
二人が息を殺していると、入口の扉が音もなく開き、誰かが入ってきた。
「……………」
「……………」
ロッカーの扉にある隙間から四つの瞳が見つめている事も知らずに、その人物は脱衣棚に近づき、真ん中当たりの棚に手を伸ばした。
「とうとう見つけましたよ!」
その人物が、誰かの下着を取り出した瞬間、鹿島はロッカーの扉を力一杯開いた。
扉に齧り付くようにしていた霧島は、反動で転げ出る。
「大丈夫ですか、霧島クン」
「あ、逃げるな、この野郎!」
突然ロッカーから転げ出てきた二人に驚き、一時は足がすくんでしまった犯人だったが、鹿島が霧島を助け起こす間に、咄嗟に走り出していた。
だが、イザとなった瞬間、霧島は助け起こしてくれていた鹿島をつき飛ばすと、猛然と犯人の跡を追って飛び出していった。
「何だ、何があったんだ!?」
風呂に入っていた連中も、脱衣所の騒ぎに驚いて顔を出す。
「泥棒だよ! 下着泥棒が出たんだ!」
「ボクに濡れ衣着せたヤツか!?」
ちょうど上がろうとしていた荒木は、その場にいた鹿島の説明を聞いた途端、腰にタオルを巻いただけの姿で犯人と霧島の跡を追った。
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