12.エピローグ

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12.エピローグ

 翌日、霧島が学食で昼食を取っているところへ、鹿島が現れた。 「美味しそうなカレーうどんだね。オレにもおごって」 「人より値段の高いランチを手に持って、なに寝ぼけたコト言ってんだよ」 「イヤだなァ。狭いロッカーの中でフトモモをすり寄せあった仲じゃないか」 「…誤解を招く発言はヤメロ…」  上目使いの霧島に、小悪魔的な笑顔で返し、鹿島は霧島の向かい側に座った。 「いやね。寮の部屋が空いたから、今日から正式に君はあそこの住人になったって事を伝えにきただけさ」 「…やっぱり、川崎は追い出されたのか?」  食事の手を止め、霧島は改めて鹿島の顔を見た。 「おんだされたとゆーよりは、出てった…のほーが正しいねぇ。寮生のみんなは荒木クンの事を面白がってるけど、彼の言動が奇行だって理解してるし。川崎クンが、あすこで暮らすには、繊細過ぎるって事も解ってたしね〜」  川崎を捕らえた後、鹿島は寮生達を集めて "話し合い" の場を設けた。  寮生達は、自分の下着が手元に戻ってきた事と、下着以外に被害がなかった事、更に川崎が下着を盗んだ理由が、荒木に濡れ衣を着せたかっただけ…だと理解し、今回の一件を不問に付す事に決めたのだ。  寮生の結論が出たところで、鹿島はその旨を川崎に告げ、川崎はこれからも寮に留まるのは無理だと言って、今朝には荷物をまとめて出ていったらしい。 「あんな騒ぎにならなきゃなァ…。もうちょっとやりようがあったと思うんだが…」 「…霧島クンがどう思ってるか知りませんがね、僕はあれで良かったと思いますよ〜。川崎クンだってこれでさっぱりしたでしょうしねえ」 「それ以前に、あんな妖怪と同室になっちまった川崎が可哀相だって、俺は思ってンだよ」 「そんな事、言わない方が良いと思いますよ〜。だって君は…」 「あれ〜、タキオちゃんに鹿島クンじゃないの」  霧島の背後から、突然頓狂な声が上がる。  バタバタとしたゴム草履特有の足音が近づき、ドッカと隣に腰を下ろしたのは、噂の主の荒木である。 「こーんなトコで偶然会うなんて、やっぱり縁があるねェ、ボク達」 「何だよ、縁って」 「あ〜れ〜、鹿島に聞かなかったの? タキオちゃん、川崎クンの代わりにボクのルームメイトになったんだよ」  霧島は、バッと鹿島に振り返った。  鹿島はニコニコしたまま、ウンウンと頷いてみせる。 「だから言ったでしょ。そんな事は言わない方が良いって。今日から君の相棒なんだからさ〜」  霧島は茫然と二人の顔を見た。  先ほどまでは、川崎に対して同情してやれるほどの余裕があったが、今はそれどころでは無い。  いやむしろ、川崎の姿は将来の自分のような気すらしているのだった。 *山麓大学第一学生寮下着盗難事件:おわり*
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