25人が本棚に入れています
本棚に追加
6 それから
「お客さん、着きましたよ。」
タクシーのドライバーが後ろを振り向いた。
「……ん?」
寝入っていた宇田川は、その声に眠りから引き戻された。
「羽田かい?」
「はい。国際線のターミナルです。
随分お疲れのようですね?」
「ああ、ちょっと。」
宇田川は支払いを済ませるとタクシーから降り立った。
腕時計に目を落とすと、すでに22時を回っている。
少し伸びをして、ターミナルビルの中に入って行った。
ターミナルビルの中は、再び眠気を誘うような温かさだった。
搭乗手続きをしようとして、マレー航空のカウンターを探していると、背後から声をかけられた。
「あなた、宇田川道隆さんですね?」
「えっ?」
宇田川はその男の声に驚いて振り向いた。
すると、そこには体格のいい2人の男が、表情に緊張感を滲ませて立っていた。
「お忙しいとは思いますが、少し話を聞かせてもらえますか?」
2人のうち年配の男の方が話しかけてきた。
物腰柔らかく、丁寧な口調だったが、その言葉には有無を言わせないような圧力があった。
そして、もう1人の若い男は、バッジの付いた身分証を見せていた。
そうか……そう上手くはいかないよな、世の中……
宇田川はすべてを悟った。
「ふっ」と小さく息を吐くと、無理を承知で男たちに訊いた。
「電話、掛けさせてもらえませんか?」
最初のコメントを投稿しよう!