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イタイッ
俺はいま、耳鼻科に来ている。
小一のあの日以来で……何年ぶりだ?
今の俺が小五だから──。
俺が初めて耳鼻科にかかった発端はプールの授業だった。
小一の夏、俺は先生の合図に従い、潜っては浮き出て潜っては浮き出ての繰り返しをこなした。
いわゆる潜水だな。
そのときに「ボゴっ」という音とともに左耳の中へと水が入り込んだ。トントン、タンタンみんなの真似をしてみても一向によくならない。
着替えを終えてもまだ水の中にいるみたいで左耳がおかしい。
水が抜けない。
家に帰っても続く耳の違和感を母さんに話してみた。
「ご飯終わったら綿棒やったげる」
これで違和感から開放されるのかと、喜んだものだった。
夕食後にリビングで横になり、綿棒での耳かき。小さな頃から眠れない俺を癒やしてくれる、母さんの耳かきが大好きだった。
この日は母さんも一緒に横になり、テレビを見ながらの耳かきだった。
俺の背中を覆うようにして、繊細な動きで耳かきをしてくれる。夕食後の癒やし綿棒……ウトウト……。
夢心地の中で聞こえてくるのは「スースー」という母さんの寝息。
寝息?
一緒に寝ちゃったのかな……
──イタイッ!
ズボリと刺さるは俺の耳。
「痛いよ、母さん!」
「あ、やっちゃったっ」
うろたえる母さんは、
「水、抜けた?」
いまの問題は、すでにそこじゃない。
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