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水の中
当時の俺は、痛い耳のまま登校した。
まずいぞ、授業が聞き取れない。水の中にいるようなを遥かに超えているぞ。
その日の俺は痛みで授業に集中できず、友達との楽しい会話ですら聞き取りにくい状態だった。
痛い。
下校前のほんの短い時間、クラスメイトの女子、子安さんに声をかけられた。
「耳の水、とれてないの?」
問題はもはやそこにとどまらぬ状態になっておる。話したことのないクラスメイトの、しかも女子に話しかけられているこの状況も、もはや異常だ。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
女子に不慣れな俺は質問に質問で返した。子安さんは、嫌な雰囲気ひとつさせず、話し始めた。
「うちのお姉ちゃんね、プール入って耳おかしくさせちゃってさ、病院行って楽になったの。神崎くんもさ、親に連れてってもらいなよ、耳鼻科──、
あ……それとこれ忘れ物、神崎くんのでしょ?」
昨日なくしたと思っていた赤い水泳帽……ありがとう。
でも正直なところ子安さんがなぜ俺の耳をそんなに気にするのかが分からなかった。俺はそんなに変だったのか。
──耳鼻科。
母さんに刺し込まれた綿棒が、まだ入っているようだ。
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