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「ようこそ。現世と鏡合わせになった場所、あの世へ!」
あたり一面睡蓮の花が覆う湖上で、僕に向かい合って話すスーツの人物。
立ち姿やスーツの着こなしから上品さが見て取れるが、喋り方は遊園地のキャストのように陽気だ。黒い靄が掛かって顔面はわからないが、声や体格から男であると思う。
「…僕は死んだのですか?」
僕の問いに彼は首を縦に振る。
「はい、あなた様は現世でお亡くなりになられました。
しかし・・・」
男は向かい入れるように手を大きく横に広げて、ある内容をより一層陽気な声で言った。
「あなたには特別な1日が与えられました。そこで、現世へ忘れ物を取りに帰ってもらうことが決定しました!」
意味がわからない。
そんな表情を浮かべると、彼は話の続きを語り始めた。
「あなた様が現世からあるモノをこちらの世界に持ってくること。
ただし、そのモノは何か決まっております。
それは何のために行っていただくかは詳しく説明できかねますが、ご協力いただけた場合には…
私共がが些細な願いを1つ聞き入れさせていただきます!」
本当に意味がわからない。
だが、現世に戻れるのなら…
「なお、いくつか条件がございます。
制限時間は1日。あなたは実体はないので、現世の人や物に干渉することはできません。したがって、浮遊しているような状態で散策していただきます。詳しい体の動かし方はあちらですぐに身に付くので、ご心配なく。回収する忘れ物が見つかりましたら、心の中で念じてい頂くだけで結構です。モノを回収する際に、あなたもこちらの世界へ戻って生きて頂くこととなりますので、その点にご注意ください。何か質問がありますか?」
説明を一気に終え、彼は首を傾げる。
僕は何も言わず、首を縦に振った。
すると、彼は「それでは、いってらっしゃいませ!」と言うと、左手の指をパチンと鳴らした。
その瞬間、僕の視界は眩い白光に包まれた。
その光と同時に意識が飛ぶ寸前、彼の呟きが聞こえた。
「そのモノはユウケイジャ…」
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