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僕は気が付くとある家の門の前にいた。
街灯の光がぼんやりと照らす家。
僕と妻と小学生の息子と3人で暮らしていた家だ。
灰色の外壁に黒い屋根の2階建て一軒家。
家の左手側には車庫兼物置が鎮座する。
僕は門に触れようとしたが、その手は無情にも突き抜けた。
その時、自分が死んだことを改めて実感させられた。
不思議と体の動かし方はわかり、浮遊した状態で移動を始めた。
引き戸になっている格子状の門を通り抜ける。
すると、その門の奥には玄関へ続く1本の通路。その両端には芝生の庭が広がっており、色とりどりの四季の花を咲かせる植物を植えたプランターが置かれている。玄関の近くには、木製のアンティークなブランコが物寂し気に置かれている。
新築で購入してまだ5年ほどであるため、どこを見ても古さを感じさせない。
けれど、僕は両親の住む実家に居た頃のような懐かしさを覚えた。
玄関前のの3段の階段を上り、黒い玄関扉を通り抜け、僕は家の中へ入った。
家の中は静寂だ。物音1つしない。
玄関の奥には1本の通路があり、1メートルほど先で左右に枝分かれしている。僕は右に曲がり、一番近くの木製の扉を通過した。
そこは広いリビングだが、誰もいなかった。
正面にある壁掛け時計を見ると、午後12時10分を示している。
僕は慌てて居間を出て、順に部屋を確認した。
子供部屋、洗面所、風呂、トイレ、寝室…
だが、誰もいない。
僕は気が付くと、最後の扉の前に居た。
2階の通路の最奥にある、襖で仕切られた和室の部屋だ。
僕はゆっくりと中へ入る。
するとそこには・・・
誰もいなかった。
ただ殺風景な和室の中に、僕の遺影と仏壇だけがあった。
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