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厚いカーテンの隙間から足元へ光が伸びてくる。
カラスの声が重々しくこだまする。
ふと我に返る。
「朝…?」
僕は何もしないまま朝を迎えていた。
いいや、できなかったんだ。
自分が”死んだ”ことを受け入れることができなくて。
けれど朝の光に背中を押されるように、僕は急いで部屋を出た
そして、ありとあらゆる場所を探る。
しかし、何を持ち帰るべきか一切思いつかない。
日常的に使っていたものを見ても何も思わない。
古いアルバムの写真を見ても何も思わない。
そうこうしているうちに午前10時が近づいていた。
どうしよう…
外に行くべきか?
どこに行くべき場所がある?
誰かに合うべきか?
・・・
何も良い案が考えつかないが、僕は外に出ようと玄関へ向かった。
その時だった。玄関の扉が開き、始まりの季節を告げる春風が勢いよく流れ込んでくる。
その流れに押されて1人の女性が入ってきた。
長い茶髪をたなびかせた凛々しい目をした女性。
頬は少しやつれているが、それでも気品のある容姿。
その女性は”妻”だった。
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