現世に戻った僕の最終日

7/15
前へ
/15ページ
次へ
友が帰った僕の家では、妻が再度ソファーで眠っている。 そのソファーの近くで僕は胡坐をかいていた。 どういうことなのだ。 なぜ、僕は自分の死因と名前がわからない。 結局、何を持ち帰るべきなんだ。 息子はどこにいるんだ。 わからない・・・ そんな時、僕はこちらの世界に来る前に聞いた一言を思い出す。 「ユウケイジャ…」 1人呟く。 何度も、何度も、何かがわかるまで呟き続ける。 何回言った頃だろう。 1つ確認したいことが浮かんだ。 名前は聞こえなかったが、文字なら… そう思い立ち、僕は仏壇へ足を運ぶ。 そして、お位牌に掘られた名前を確認する。 だが、案の定というべきだろうか。 やはり僕の名前は読めなかった。 黒い靄が掛かり、僕の真の名は読めない。 ”ユウケイジャ” この言葉が頭の中で反芻する。 そして、1つの仮説が思い浮かんだ。 僕の忘れものは・・・現世の名前か 「大正解!!」 仮説を立てた瞬間、頭の中に声が響いた。 「そのまま聞いてください。 あなた様は亡くなられた際に頭部を大きく損傷されていました。 そういう方に稀に起こるのですが、記憶が飛んでしまうことがあるのです。 普通の記憶なら大した問題はないのですが、名前がわからないと… こちらの世界での手続きが滞ってしまいますので、1日限定で名前を思い出す旅に出て頂くのです」 一方的に解説を告げられ僕が混乱していると、彼が一言付け加える。 「最後に名前を思い出す方法ですが・・・ 記憶のトリガーとなるような衝撃を受けると思い出すことがあります。 残りの時間で思い出せるように、頑張ってください!」 「ちょっと…」 僕が引き留めようとしたが、彼の声は消えてしまった。 僕は何もわからないまま、家の外へ飛び出した。 記憶を取り戻すために。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加