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友が帰った僕の家では、妻が再度ソファーで眠っている。
そのソファーの近くで僕は胡坐をかいていた。
どういうことなのだ。
なぜ、僕は自分の死因と名前がわからない。
結局、何を持ち帰るべきなんだ。
息子はどこにいるんだ。
わからない・・・
そんな時、僕はこちらの世界に来る前に聞いた一言を思い出す。
「ユウケイジャ…」
1人呟く。
何度も、何度も、何かがわかるまで呟き続ける。
何回言った頃だろう。
1つ確認したいことが浮かんだ。
名前は聞こえなかったが、文字なら…
そう思い立ち、僕は仏壇へ足を運ぶ。
そして、お位牌に掘られた名前を確認する。
だが、案の定というべきだろうか。
やはり僕の名前は読めなかった。
黒い靄が掛かり、僕の真の名は読めない。
”ユウケイジャ”
この言葉が頭の中で反芻する。
そして、1つの仮説が思い浮かんだ。
僕の忘れものは・・・現世の名前か
「大正解!!」
仮説を立てた瞬間、頭の中に声が響いた。
「そのまま聞いてください。
あなた様は亡くなられた際に頭部を大きく損傷されていました。
そういう方に稀に起こるのですが、記憶が飛んでしまうことがあるのです。
普通の記憶なら大した問題はないのですが、名前がわからないと…
こちらの世界での手続きが滞ってしまいますので、1日限定で名前を思い出す旅に出て頂くのです」
一方的に解説を告げられ僕が混乱していると、彼が一言付け加える。
「最後に名前を思い出す方法ですが・・・
記憶のトリガーとなるような衝撃を受けると思い出すことがあります。
残りの時間で思い出せるように、頑張ってください!」
「ちょっと…」
僕が引き留めようとしたが、彼の声は消えてしまった。
僕は何もわからないまま、家の外へ飛び出した。
記憶を取り戻すために。
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