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夢を見た、ここを離れる前の夢
おばあさんがいた、足腰が悪かったけど他の人に優しくて、笑顔が好きな人
みんなもその人が好きで、重いものを持ってあげたり背負って歩いてあげたりと、いい人たちだった。
だけどどんな時間にも終わりが来る、そのおばあさんは寿命で亡くなった。
教主さまも信者のみんなも、そして私も泣いた。
哀しくて悲しくて、ずっと泣いていた。
そして火葬される数日前にそれが起きた。
微かに声が聞こえる方に行くとそこではおばあちゃんが待っていた。
どうやら言い残したことがあったみたいでそれを教主様に伝えたいって
その為に身体を少しだけ貸した、その時の意識はなんだか朧気だけど気が付いたら教主さまの傍に立っていた。
「教主さま、どうして泣いてるの?」
「いえ、何でもありませんよ。それよりもノエル、その力はみだりに使ってはいけません」
「どうして?」
「力のある人はそれ故に恐れられるのです、そしてそれ以上にその力が知られれば縋らざるを得ない人たちがいます」
その言葉の意味はよく分からなかった、だけどこの力があれば沈んだ人たちを元気にできるんじゃないかとも思った。
だからある日、まだみんなが悲しみを引き摺っているときに私はこの力を使った。
『みんな、元気を出して。私は元気だから、大丈夫だから』
今度ははっきりと意識を保っていられた、だからその時のことは覚えている。
みんなが驚いて、俯いて、それでも前を向いて生きていこうと言っていた。
それなのに、教主さまだけがずっと悲しげな顔でうつむいたままだった。
「教主さま、笑って?教主さまが俯いたままだと悲しいよ」
私にノエルという名前をくれた人、父親がいない私に名前をくれた人。
何時だって自分が一番つらいのに、それでも誰かのために動ける人。
そんな人の手助けになりたくて、少しでも頑張りたかった。
でも、それから少しずつここはおかしくなっていった。
亡くなったあの人の声を聞かせて欲しいと縋る人は後を絶たない。
最初は応えられたそれも昼も夜も問わなくなってきた。
その時になって初めて教主さまの言葉が理解できた。
でももう時にはもう遅かった。
優しかったかつての居場所はもう死者の声を蘇らせるための舞台でしかなくなってしまった。
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