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「それじゃ、始めよっか」
彼女にリードされるままマットやベッドでのサービスを受けて、最後には僕は彼女の中で果てた。
やがて終了時刻が近づいたのだろう、きりのついたところで僕らは身体についているローションを洗い流すために、交代でシャワーを浴びた。そして彼女も僕も、バスタオルで濡れた身体を拭いてそそくさと脱いで掛けてあった元の服を着始めた。
それから、湯舟やマットの片づけをしながら彼女が話し掛けてきたので、僕は初めての経験の感想を交えながら雑談を楽しんだ。
事務的でない、まるで女友達のように振舞う彼女に、僕はすっかりリラックスしていた。
それも、彼女の気配りだったのかもしれないが、このとき彼女が言ったように、送迎の運転手が、彼女のことを新規客に性格がいいとお薦めしているという話も腑に落ちた。
いよいよ彼女に連れられ、部屋を出ることになった。
「忘れ物とか大丈夫だよね」
「うん」僕は、どことなく寂しい半面、晴れ晴れした気持ちで頷いてみせた。
先ほど上ってきた階段を、今度は僕が先頭で下りていく。
彼女が出迎えで待っていたあの踊り場まで来ると、後ろをついてきていた彼女が不意に僕の肩をトントンと叩いた。
僕が振り向くと、そのまま彼女は唇を寄せてきてキスをした。
ややして唇を離し僕が「ありがとう」と言って身を引くと、彼女は小さく肩の辺りで手を振った。
階段下にいたスタッフに再び待合室へ案内されたあと、送迎の車が用意できるまでのあいだ、次回はどの女性がいいか選びながら待つように言われ、例のアルバムを渡された。
僕はほとんどうわの空でページをめくり、ぼんやりと眺めた。次またここへ来るなら彼女と決めていたからだった。
帰りの車は、僕の希望で上野駅に向かっていた。上野はそれほど馴染のあった場所ではないが、降り立つと街の熱気がいつもとかなり違って感じられた。
普段触れ合うことがなかった人肌に包まれたあとだったからだろう。この時ばかりは、駅に向かう人の群れを縫って歩く僕には、いつもまとわりついていた、疎外感という、あの不快な孤独感はなかった。
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