SWEET PAIN : Meet You Again ~ 同じ太陽の下で

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 メルとは、あの部屋を出る前にメールアドレスをやり取りしたが、再来店を促す営業メールを送ってくることはなかった。  僕はその後二度通ったが、メルの指名で予約を入れたことを書き送ったときくらいしか、彼女との間では何のやり取りもなかった。  二回目は、その初回から三か月後、遊びで上京したときだったが、彼女はリピートした僕を歓迎して「今度上野で中華でも奢るよ」と言っていたが、その後半年以上、間が空いたら、すっかり他人行儀だった。  今から思えば当然なのだが、毎日のようにいろいろな客を相手にしているわけである。  彼女が僕のことを忘れてしまっても仕方がないのだが、僕は彼女に思い入れがあっただけに純粋に寂しく思った。  それでも、僕は事前に用意していたプレゼントを手渡した。  僕は、この時の上京の際、長年行きたいと思っていた箱根の星の王子さまミュージアムを訪れていた。それでたまたま目にした小さなキツネのぬいぐるみを、思いつきで彼女のために買うことにした。  彼女は、星の王子さまを読んだことがないと話していたが、もし後からでも調べる機会があったなら、僕が友情のしるしで置いていったことが分かったかもしれない。  僕らの最後はそんな一方的な関係だったが、全てのサービスが終わったあとに交わした会話の最中に、彼女はこう切り出した。 「私ね、福島へ帰ることにしたんだ」  僕は、もう会えなくなることを非常に残念に思ったが、帰郷の理由が今後は祖母のそばにいたいからだと知った。 「それなら、帰った方がいいね」  僕もまた、大病を患った祖母や、見舞いや世話に追われる母らの心細さを思って故郷へ戻る決断をしただけに、彼女の同じような帰郷理由に感慨を覚えた。  あと三か月くらいソープで働いてから辞めて地元に戻る、と彼女は話したが、僕も地元での転職の絡みもあり、もう彼女と会うことはなさそうだった。   「ありがとう。身体を大事にしてな」  最後に部屋を出るとき、僕がサヨナラがわりにそう言うと、彼女は急にボロボロと泣き始めた。  驚いて、どうしたのかと訊くと彼女は、しゃくり上げながら「そんなこと、今まで誰にも言われたことがなかったから」と言った。  
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