マシュマロと恋の味

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 姿見の前で頬を覆っていた手が冷えてゆくのを感じた。  キスって、いつどうやってするものなの?  それに対する具体的な答えはこれまで抱いてきたキスへの煌めく幻想に隠されている。  ――顔を近づけたらきっと自然にできるよね。  鏡に映る自分に接近してみる。どんどん近づくと、視界が全部顔になって焦点が合わなくなって目がひとつに見えてきて、これが八谷くんの顔だったら近すぎて胸が爆発するけどキスのときって相手が一つ目小僧に見えるものなのかな? と思ったところで鼻の頭が鏡にくっついた。  ……鼻が先?  顔をちょっと上に向けると口も鏡についたけれど結局鼻もついたままで、鼻をぶつけずに口に狙いを定めるのはけっこう至難の業かもしれないと、不安になってとりあえず鏡から離れた。すると鏡に私の唇のカスみたいな白い跡が残ってて、なにこれこんなものが八谷くんの口についちゃうと焦ったけれど、指で擦ってみて伸びた油分の感じで昼食のあとに塗ってたリップクリームだと気がついた。リップがこんなふうに付いてしまわないように明日は塗らないほうがいいのかむしろアルコール消毒くらいすべきなのか口の清潔さが気になって、でも気にすべきは唇の皮膚表面よりも口臭のほうかもしれないとも思い至り、わからないことが多すぎて私の恋のバイブルに聞いてみることにした。  
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