マシュマロと恋の味

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 落ち着いたタイミングでこれまでの要点を頭でさらいながら目を閉じて頭を右に傾けて想像してみたんだけどいまいちリアリティに欠けていて、本番になるときっともっと緊張してカチコチになってうまくできないかもしれないからイメージトレーニングをしなければと思い立つ。  キスの練習。  なにで練習しようと頭を捻って、とりあえず自分の腕にすることにした。ブルゾンとニットでごわついた袖を捲り上げて、目をつぶって、八谷くんの顔を想像して、ゆっくり、そうっと。  触れた瞬間、「あ、手首だな」って感じだったけど、想像力のおかげでまずまずの練習になった。もう少し気分を高めたいなと思って、思いついてキッチンへ行き戸棚を漁ってマシュマロを取り出したところで玄関扉の音とただいまー、という声がした。お母さんがパートから帰ってきたみたいだ。  いやらしき暴走から我にかえって一気に恥ずかしくなった私は、マシュマロの袋を持ったまま声だけで「おかえりっ」と言い置いてそそくさと自室へ駆け込んだ。  部屋の散らかりぐあいを改めて見ると驚愕で、いったん服とマンガの山を収めることに精を出す。  けれど我にかえっていたのは一瞬で、ついまたマンガに手を染めてしまい憧れのキスシーンに舞い戻った。
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