マシュマロと恋の味

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 お花畑のようなキスシーンは流れるようにスムーズで、一番重大な問題にぶち当たった。  キスまでの流れがわからない。  俺様彼氏が唇を奪うような状況なんて八谷くんではありえないし、そもそも八谷くんからキスを求めるところなんて想像できない。  つ、つまりは私から誘わないといけないわけで、ヒロインぶって目を閉じて待っているわけにもいかないということだ。  お魚の泳ぐ水槽の前で「キスしよう」って言ってみる? いやいや水族館はほかのお客さんがたくさんいてそんな公共の場で接吻なんて公然わいせつ罪かなにかで逮捕されちゃうかもしれない。でもどこかの物陰に八谷くんを連れ込んで迫るなんてムードも素っ気もないし八谷くんには引かれるんじゃないだろうか。ああ、泳ぐお魚のまえで周りに誰もいないような奇跡のシチュエーションが訪れたらいいのに。熱帯魚とかペンギンは大人気だからありえなくて、失礼だけどフナとかオオグソクムシあたりならもしかして。  ていうか「キスしよう」ってなんか相手が受け入れること前提な言い方で私たちの関係では時期尚早な気がしてきた。「キスして」って言ってみようか。それだとキスしたいのは私なのに八谷くん任せの無責任な言動で責任問題になりかねない。「キスしたい」がいいかもしれない。切り出しかたは、「ねえ」かな。「ねえ、キスしたい」これではなんだかこなれてる甘えた感が出ちゃってる。あのね、はどうだろう。「あのね、キスしたいな」このくらいがベストかな。  奇跡的に二人きりになったオオグソクムシの前で八谷くんと向かい合う想像をした。
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