「優しさ」をたずねて

12/14
前へ
/14ページ
次へ
 呆気にとられ横を見ると、穂乃花はギュッと唇を結び男性を凝視していた。  俺はこの時穂乃花が「ジェンダーレス」を頻繁に口にしていた理由が理解できた。受け入れ難い事実を必死で受け入れようとしていたのだ。皆口では「男女平等」などと言うが、いざ自分の家族が、となったらすんなり認める事は難しい。穂乃花は誰にも言えず1人で悩んでいたのだ。 「全員揃ったんならケーキ食べましょう。もう撮影は終わったんですよね」 「あ、うん」  多分この中では俺が一番冷静だ。俺は穂乃花に取皿を持ってこさせた。 「見た目もいいけど味もいいですね」 「本当に」 「……」 「……」  気まずい沈黙を避けようと誰かしらが口を開く。しかし話は続かない。重苦しい時間が流れた。でも野村さんが女だとしても同じ状況だったのではないのか。他所の家族に他人が入る。迎える側も迎えられる側も気を遣う。それは女だろうが男だろうが一緒なのではないだろうか。  その後みんなで鍋を食べた。お父さん、いや薫ちゃんの作った鍋は絶品だった。自分で鶏ガラスープを作ったという。今度教えてもらう約束をした。  食事を終えテレビを観ていたら突然穂乃花が大声を出した。 「おめでとう!」 「ありがとう」 「え?」 「え?」  0時になり新年を迎えた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加