「優しさ」をたずねて

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 俺の予想に反し、次の日も穂乃花はやって来た。 「私が間違ってた。女の気持ちが分からないなんて言っちゃったけど、気持ちに女も男もない。人の気持ちが分からない、それが正解よね」  時代はジェンダーレスだと言う。 「本当はね、鷹斗が料理上手だからひがんでたの。男のあなたが上手で女の私が下手だなんてみっともないって。でも男だ女だなんて拘ってた自分が間違ってた」  そう言って美味そうに俺の作ったチャーハンを食べる穂乃花。俺は小学生の頃から料理をしていたから昨日今日始めた穂乃花より上手いに決まっている。それに穂乃花に作ってくれと頼んだ覚えはない。逆に他人にお勝手をかき回されるのは好きではない。 「ねえ、どうやったらこんなに美味しくてパラパラしたチャーハン作れるの?」 「さあ。誰でもできるだろ」 「できないから聞いてるんじゃないの!」  ああ、女って面倒くさい。いや、時代はジェンダーレスだった。ならば穂乃花は面倒くさい、が正解か。 「洗い物くらいするわよ」 「いや、いい」 「何で? 私の手が荒れちゃうと可哀想だから?」 「水出しっぱなしで洗うから」 「……それはすみませんでしたね」  母親が家出してからは俺が家の事をやって来た。料理が不味いと親父に怒鳴られた。掃除してないと蹴られた。洗濯してないと殴られた。高校に行きたいと言ったら「何処へでも行け」と追い出された。  それからバイトをしたり派遣で働いたりしながらずっと1人で暮らしてきた。穂乃花みたいに水道代や電気代がいくらなのか知らないお嬢様とは違う。  なのに何で俺は穂乃花を受け入れたのだろう。 「ねえ、今日泊まってってもいい? 明日休みだし」  俺の応えを聞く前に穂乃花は布団に潜り込んだ。1つしかない布団。俺も横に潜り込む。  あったかい。穂乃花がいると電気毛布はいらない。電気代が浮く。だから俺は穂乃花を受け入れたんだ。きっと。
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