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「ん……きもちいい。鷹斗はマッサージも上手だね。うん、そこ」
全身を脱力させ俺に身を任せる穂乃花。肩はパンパンだ。
「穂乃花」
「ん?」
「穂乃花は何でそんなに俺の母親を探そうとしてるんだ?」
「そっか。言ってなかったもんね。私も鷹斗と一緒なの。父子家庭」
「え?」
「うちは私が小さい頃にお母さん死んじゃったの。まだ保育園に行く前。だからなんにも覚えてない。顔も、声も」
何不自由なくお気楽に育ったものだと思っていた。
「だから私の場合、探しても見つかる確率0パーセント。でも鷹斗は見つかる確率100パーセント!」
そんな思いで俺の母親探しをしてくれていたのかと思うと胸が熱くなった。
「それに忘れ物取りに行かなきゃいけないじゃない?」
「……”優しさ”か?」
「そう。お母さんのお腹の中に忘れてきちゃった優しさを」
そんな物、母親に会ったからって手に入るわけはない。俺には必要ないからわざと置いてきただけなのかもしれない。
「穂乃花は料理しなかったのか?」
「それがね、うちの薫ちゃん」
「薫ちゃん?」
「ああ、私のお父さん薫っていうの。だから薫ちゃん」
「仲良し親子なんだな」
「うん! でね、薫ちゃんはとっても料理上手なの。あと掃除も洗濯も完璧。私の出る幕なんてないの」
「甘やかされて育ったんだな」
「その代わり勉強はやらされたよ」
「女だったら勉強より家事を覚えた方が役に立つ。どうせ結婚すれば仕事なんか辞めるんだし」
「私辞めないよ。一生続ける」
「じゃあ結婚しないんだ」
「結婚もする。子供も作る」
「でも家事もできない女、貰い手なんかないんじゃないのか?」
穂乃花は肩にあった俺の手を振り払った。
「寝る!」
後ろ姿でも怒っているのは分かった。穂乃花は寝床へ行くと頭から毛布を被った。
肩揉みから解放された俺も布団に潜り込んだ。シングルの小さい布団に大人2人が背中合わせに寝る。抱き合うわけでもなく、お互い反対を向いて寝る。
でも俺はこれが嫌いではない。背中と背中がくっついてとてもあたたかい。抱き合って寝るより触れ合っている面積が大きい。最近それに気付いた。こんなに安心して眠れる方法は他にはない。俺はすぐに眠りに就いた。
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