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「こういうの、実優にしか話せないんだよ」
知ってるよ、と、心の中だけでつぶやいた。あんたがこういうこと言えるのはわたしにだけだって、もうとっくに知ってる。
もちろん、愚痴を延々と聞かされるのにうんざりしている。しかし、実優がきつい言葉を吐く理由は別にある。実優がある程度本音をさらけ出さないと、絢香もまた、美しいヴェールで自分の醜さを隠してしまうからだ。彼氏や、きらきらした友人たちの前では絶対に見せないような、ダメなところを。美しく明るく優しい完璧な女性には、必要ない部分を。
たぶん実優は、絢香が「完璧な女の子」を脱ぎ捨て、愚痴を言える数少ない相手のひとりだ。だから、実優はあえて毒を吐く。あんたも毒を吐いていいのだと、態度で示す。
だが、これは同情ではない。思いやりでもない。絢香がみっともない部分をさらすたび舌の根にひろがる仄暗い甘さに、実優はだいぶ前から気づいていた。
ピザをつまむと、冷めかけているせいかチーズがくっついて分けられない。ナイフで強引に切りながら、実優は、
「あんたって、彼氏のこと、本当に好きなの。ちょっと不満でも好きだから許せる、とかはないの」
と聞いた。
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