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手持ち無沙汰で頼んだドリンクバーのコーヒーも、一杯目がそろそろなくなりそうだった。取りに行こうかと考えていたところで、ドアベルが鳴って、実優は顔をあげた。店内に入ってきた女性に、手を振って合図する。目が合うと、彼女は手を振りかえし、こちらに向かってきた。ヒールが軽い音を立てる。グレーのマフラーのうえで、綺麗にカールした毛先が揺れ、白いコートからは淡いピンクのニットワンピースがのぞく。絢香は頭のてっぺんから爪先まで、上品さと甘さと隙、つまり計算し尽くされた「女の子らしさ」で武装していた。少し離れた席に座っていた中学生らしきカップルの男子のほうが、通り過ぎる絢香を目で追い、女子に頭を叩かれていた。
「お待たせ、実優」
絢香はコートを脱いで、椅子に座った。
「ううん、さっき来たとこ」
「ごめんね、用事なかった?」
「別に。レポートやってただけ」
「そっかー、提出期限近いの?」
クリスマスにひとりで課題をやっていた、と言っても、絢香は、寂しいやつだとか、独り身アピールだとか言わない。
「年内に提出」
「えー、それ先生正月に添削するのかな。かわいそー」
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