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適当に話しながら、メニューを眺める。「やっぱチキンとか食べる?」などと言いつつ、結局絢香が頼んだのはハンバーグセットだった。ふたりで入り浸り始めた小学校五年生ぐらいから、絢香はたいてい同じメニューを注文する。チキンは実優が頼んだ。実優は飲んでもよかったが、絢香が酒を好きではないので、頼まない。店員が立ち去ると、絢香は疲れた顔でポニーテールをほどいた。薄茶の巻き髪が、ワンピースの胸元に散らばる。
「なにがあったの」と実優は聞いた。
「いや別に、実優に会いたくなっただけだって」
「嘘つけ、なにかないと誘ってこないくせに。しかも、よりにもよって今日」
夜七時に「ちょっと今から会えない?」なんてラインを送ってきたのだ。なにかないはずがなかった。
その「なにか」にはだいたい予想がついて、面倒だとため息が出る。なのに、絢香から連絡が来るたびに、結局応えずにはいられない。徒歩で十分もかからない道のりを急いでしまうのは、あの日の絢香が頭の奥で揺れるからだ。凍るような風に吹かれながら、ひとりで実優を待っていた、あの細い姿。
「彼氏となにかあったんでしょ」
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