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旧盆の季節もとっくにすぎて、10月になった。
10月は、台風が多い。
今年は風を呼ぶデイゴが咲いたから、吹き荒れることだろう。
ざ、ざぁー……
波の打ちつける砂浜に座り込み、三線をかまえる。
脳裏に刻まれた音を義甲ではじくたび、高揚感に満たされる。
なぁ美波。
お前の三線で、お前のつくった曲を弾いてるんだ。
こんなこと言うの、柄じゃないけど。
まるで、お前を抱きしめているような気分になるんだよ。
一度は終わってしまった恋。
そうかもしれないな。
けど、諦めの悪い俺に見つかってしまったのが運のつき。
お前が言葉にできなくてしまいこんでしまった曲に、俺は、唄を返すよ。
なぁ美波。
お前の音色は、子守唄みたいにやさしかったな。
なぁ美波。
俺の音色はどうだ?
お前みたいにやさしい音色じゃないだろ。
お前を、お前だけを想ってほとばしる感情が、おだやかなものであるはずがないだろ。
これはそう。
嵐の空に轟く雷鳴のように。
ゴロゴロ……
水平線の彼方で、厚い雲が渦巻いている。
遠くでこだまする雷のように、俺はいつまでも、夏が終わったとしても、お前への想いを叫び続ける。
「──『遠雷の唄』」
磯の香る潮風を吸い込み、俺は唄う。
なぁ美波。
愛してる。
来世で、待ってろ。
【終】
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