彼女の特別な一日

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 彼女はこのアパートで暮らし始めたばかりだった。  まだ外の様子について把握できていなかったし、周りに知人もいない。  現役をリタイアして働く必要もなく、特別欲しいものもない。  しばらく暮らしていく分の日用品は揃っていた。  だから彼女は、毎日朝から夜までテレビを観ていた。  温かなお白湯を飲み、ベッドで毛布にくるまれて。  不思議と飽きはしない。  この部屋には、入居した時から既にたくさんのチャンネルが登録されており、様々なジャンルの番組を観ることができた。  スポーツ、音楽、お笑いに料理。  中でも彼女が特に気に入って観ていたのはドラマだった。  ドラマの中にも多数のジャンルがある。  山林の中で主婦が殺害されるサスペンス。    捜査機関から運ばれてくる遺体を解剖し、その死因を究明する法医解剖医による医療ミステリー。  長年連れ添った妻を亡くした中年男性が、妻の死を乗り越え当時の不倫相手と新たな生活を始めるラブストーリーなんてのもあったが、彼女には興味がなかった。  彼女が好んでいつも観ていたのは、意外にも学園ドラマだった。  舞香(まいか)という18歳の女子高生が、恋に部活に受験勉強に奮闘するという青春ストーリー。  彼女は主人公の舞香の大ファンだった。  まだ少々あどけなくて頼りないところもあるが、真っ直ぐで明るい、可愛らしい主人公だ。  舞香は少し前に不幸があり、母親を亡くしている。  それでも希望を失わず、寂しさを堪えひたむきに生きているところに胸を打たれた。  舞香が朝目覚めるところから、一日を過ごし、夜ベッドに入るまでを食い入るように見つめる。    今日はそんな舞香にとって特別な一日。  彼女にとっても特別な回だった。
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