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クルンの泣き真似だったと悟り、断ろうとしたけれど、スレイが顔いっぱいの笑顔で、オレの首に手を回し抱き付いてきた。
「ケント、ありがとっ!」
――ま、いっか。
でへへと頬がゆるんだ。
「あ、姫ばあちゃん……」
コン・ティンを封じるのはいいとしても、オレにはオレの生活がある。親とねえちゃんは東京にいるから、オレがしばらくいなくても気が付かないだろうが、ばあちゃんは違う。ばあちゃんにオレがいないことに気付かれたら、心配をかけてしまう。
「姫ばあちゃん、卵焼きを作ってくれた人?」
「うん。暗くなる前には帰るって言っちゃったから」
「ダイジョブ。こっちとケントの世界、流れる時間、違う。暗くなる前に帰れる」
「よかった。それなら、まあ……」
「コン・ティン、封じに行く!」
「遊びに行くみたいに言うんだね……」
――オレはけっこうビビってるんですけどォ!
とは言えず、ひきつった笑いを浮かべた。異国の人間にはコン・ティンの魔術は効かないということを信じるしかない。
「こーなったら! 朝飯前じゃなくて、夕飯前に終わらせてやるぜー!」
「おー!」
スレイがニコニコ笑って、片手を振り上げた。
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