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始まりの日
「……っく、うっく。ヒック……」
誰かの泣き声が聞こえた。多分、女の子。
オレは大好きな甘い卵焼きにのばしかけた箸を止めて、耳をすました。泣き声は家の中じゃなく、外から聞こえてきていた。
オレの前には、ご飯と味噌汁、卵焼きが、ホカホカ湯気をたてて並んでいる。小学校が冬休みの間、遊びに来ている北海道のひいばあちゃんちの定番朝ご飯だ。フライパンで焼いているから、卵焼きのはじっこが細いのも、なんかのどか。
つまりいたって平和。だけど、外は……。
チラッと窓の外を見た。夜中ずっと降っていた雪が積もっている。もう雪は降っていないけど、独りぼっちで泣くには、きっと身も心も寒すぎるはず。
ひいばあちゃんちは北海道のけっこう山奥だ。ぐるっと見回しても、他の家は建ってない。だけど、たまにスキー場じゃない場所でスキーをしたいと、穴場を探して自分から迷いこんでくる人がいるんだ。
だから、そんな観光客のひとりなのかもしれないけど……、あの泣き声は大人じゃないみたいだ。ということは、一緒に来た大人とはぐれちゃった子供かもしれない。
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