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 カポエイラのメストレ(師範)がしゃがんだ状態からバク転し、蹴りを放った。 ――マカコだ! すげえ!  ヒュウッと風切り音が鳴る。対峙しているプロフェッソール(教師)が体を反らせ、その胸のギリギリをメストレの足が通過していき、ヒヤッとする。  戦っている二人を囲んでいる人の輪はいつもと同じ大きさなのに、いつもよりもずっと狭く感じる。  応援の手拍子にも力が入る。だけどそれはオレだけじゃない。ビリンバウの独特な音色も、歌声も興奮でどんどん大きくなっていく。  プロフェッソールが片手逆立ちでくるりと蹴りを出し、さらに回転してメストレ師範にフェイントをかける。 「速えっ!」  演舞はさらにスピードを上げて続く。攻撃を当てないのがルールだから、どんなに鋭い蹴りでも、基本的には安心なはず……だけど。 「あの、なんか、プロフェッソール、おかしくないですか?」  手拍子をしながら、隣に立っているモニトール(研修生)の村上さんに聞いた。村上さんがオレをチラッと見た。目が不安そうだ。 「うん、ちょっと、殺気を感じるよね。それにいつもよりずっと……」 ――そうだ。いつもよりもずっと、技が早く切れも鋭いんだ
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