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 スレイが叫ぶ。コン・ティンが木の(つる)(むち)のようにして投げ、オレの手首に巻きつけて引き戻した。 『大丈夫ですか、我が(あるじ)?』 「う、うん」 「ありがと、コン・ティン」  スレイが言うと、コン・ティンはフンと顔をそむけた。 『お前のために助けたのではない。礼は無用だ』 「はいはい、そうですかーっ。ケント、赤い水、ナーガの毒ね。触れただけで皮膚がただれちゃうよ。もし落ちたら……」スレイはブルッと震えた。 「毒の水なのか……! ふたりとも、ありがとう」  スレイとコン・ティンは嬉しそうに(ほほ)をゆるめたが、顔を見合わせるとおたがいにプイっと顔をそむけた。 ――あらら……、仲良くできないのかなァ  オレは小さくため息をついた。 「あれ? なんか池の水、泡立ってない?」  池の真ん中あたりを指さした。無数の泡が水底から登ってきては弾け、水面が剣山のように波立っている。 「ケントっ!」  スレイがぶつかってきた。ひときわ大きな水しぶきがオレのいた場所を赤く染める。 「あ、あれは……」  聞かなくてもわかる。蛇神ナーガだ! 見上げる程の大蛇には、頭が七つある。美しかったはずの白い鱗は、赤い毒でうす汚れていた。 「ナーガ!」
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