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「わあああああああ!」
ピウーッという鳴き声が聞こえ、クルンがドンッとぶつかってきた。オレは暗闇の空間に飛び込み、どこまでも落ちていく。
「ああーーーーーーーー!」
地面がなくなってしまったんじゃないかと思った頃、ドスンッと灰色のアスファルトに激突して転がった。
「いってー!」
痛む尻をさすりながら、あたりを見回すと、見慣れた光景が広がっていた。東京に戻ってきていた。クルンがオレを助けるために、空に道を拓いたんだ!
――毒の水に落ちたら皮膚がただれて……、もしかして死んでたかもしれない。サンキュー、クルン
「ケントー、そんなとこで、寝転がって、どうしたんだよ? もう練習おわっちゃったぞー」
親友の向井亮が、ひょっこり顔を出した。オレにとっては日常の代名詞みたいな奴だ。
「うわ。気持ちがついていかないぜ」と思わずこぼす。
「なんだよ、それ? 荷物持ってきてやったのに」
亮は唇をとがらせて、オレの額にリュックをポスっと乗せた。もう道着から普段着に着替えている。オレは自分がカポエイラの道着のままだったのに気が付くと、急に寒くなってきた。亮が差し出したダウンジャケットを急いではおる。
「で? どしたの?」
「あー、なんでもない」と、答えたけれど、上の空だった。頭の中ではあっちの世界の事を考えていた。手を開くと、三角形の欠片があった。目のような模様がついている。欠片を手の中で転がしてみる。
――逆さ鱗にささっていたコレ、なんだろう? 割れた茶碗の欠片みたいだ。ナーガは元にもどったかな? スレイたち、大丈夫かな……?
『オークン。アリガト』
スレイの声だけどスレイじゃない、クルンの鳴き声が聞こえた。
――アリガトってことは……、スレイ達、大丈夫だったんだ!
「なんだ? オウムか?」
亮がキョロキョロする。オレは吹き出した。
「よっ!」
仰向けに寝転がった状態から、足を振り上げて反動ではね起きて着地する。
「行こうぜ!」と亮に言うと、走り出した。
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