9/9
前へ
/155ページ
次へ
「わあああああああ!」  ピウーッという鳴き声が聞こえ、クルンがドンッとぶつかってきた。オレは暗闇の空間に飛び込み、どこまでも落ちていく。 「ああーーーーーーーー!」  地面がなくなってしまったんじゃないかと思った頃、ドスンッと灰色のアスファルトに激突して転がった。 「いってー!」  痛む尻をさすりながら、あたりを見回すと、見慣れた光景が広がっていた。東京に戻ってきていた。クルンがオレを助けるために、空に道を(ひら)いたんだ! ――毒の水に落ちたら皮膚がただれて……、もしかして死んでたかもしれない。サンキュー、クルン 「ケントー、そんなとこで、寝転がって、どうしたんだよ? もう練習おわっちゃったぞー」  親友の向井亮(むかいりょう)が、ひょっこり顔を出した。オレにとっては日常の代名詞みたいな奴だ。 「うわ。気持ちがついていかないぜ」と思わずこぼす。 「なんだよ、それ? 荷物持ってきてやったのに」  亮は唇をとがらせて、オレの額にリュックをポスっと乗せた。もう道着から普段着に着替えている。オレは自分がカポエイラの道着のままだったのに気が付くと、急に寒くなってきた。亮が差し出したダウンジャケットを急いではおる。 「で? どしたの?」 「あー、なんでもない」と、答えたけれど、上の空だった。頭の中ではあっちの世界の事を考えていた。手を開くと、三角形の欠片があった。目のような模様がついている。欠片を手の中で転がしてみる。 ――逆さ鱗にささっていたコレ、なんだろう? 割れた茶碗の欠片みたいだ。ナーガは元にもどったかな? スレイたち、大丈夫かな……? 『オークン。アリガト』  スレイの声だけどスレイじゃない、クルンの鳴き声が聞こえた。 ――アリガトってことは……、スレイ達、大丈夫だったんだ! 「なんだ? オウムか?」  亮がキョロキョロする。オレは吹き出した。 「よっ!」  仰向けに寝転がった状態から、足を振り上げて反動ではね起きて着地する。 「行こうぜ!」と亮に言うと、走り出した。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加