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 うちの名前はコン・ティン。昔々、人間だった。そしてタプロームじゃない、遠い場所にいた。  人間だった頃の記憶は、もうぼんやりとかすんで見えないけれど、ただ大好きな人がいたことは覚えてる。  大好きな人は、家族だったかもしれないし恋人だったかもしれない。面影すら覚えていないのに、大好きな人を思うと太陽の光を浴びているような、じんわりしたぬくもりに包まれるんだ。もう大好きな人に会えないっていうちょっぴりの寂しさと一緒に。  もしかしたらうちは、あのぬくもりをくれる人を、魔物になった今でもずーっと、探しているのかもって思うことがある。  人間だった最後の日、うちは死にかけてた。なぜ死にかけたのかは覚えてない。でも、うちはまだ14歳だったし、死にたくなかった。生きていたかった。だから祈った。 ただし、神仏に祈っても無駄なことは知っていた。神仏に祈ってどうにかなるのなら、うちは死にかけてなんかいないはずだから。人間はいつかみんな死ぬ。だから神仏と死は、干渉しないっていう盟約でもあるんだろう。そういう訳で、うちは神仏以外の何かに祈った。
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