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「死にたくない」その祈りは、土に染み込み、樹が吸い上げた。そしてうちは樹の魔物、コン・ティンになったんだ。  だけど魔物も意外と楽じゃない。人間だった頃の記憶はほとんど何にもないっていうのに、一人ぼっちの寂しさが、月の綺麗な夜なんかにゾンビみたいに蘇る。夜空を見上げてフラフラさまよっているうち、うちは故郷から遠く離れたタプロームに行き着いていた。  タプロームには大きな樹がたくさんあった。それに、人がかつて作った建物(遺跡というらしい)と樹が融合していた。人間から樹の魔物になったうちには、とても居心地がいい空間だった。  時々、さまよいこんでくる人間を笑ってからかったり、しばらくの間、魅了して「好きなように」するのもおもしろかった。  タプロームにはラーフという魔物の王がいると話には聞いていた。だけど外から移り住み、森の片隅で好き勝手にいるうちとは、なんのかかわりもなかった。  だからうちは、長い間、楽しく気ままにタプロームで暮らしてた。  ある日、素敵な男の子が樹の下を通りかかった。うちの視線に気が付いて、彼が樹の枝に座っているうちを見上げた。
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