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「こっちにおいでよ! スレイが夕ご飯にしようって」
我が主に名を呼ばれると、ポッと胸に種火が灯されたみたいに、冷えた体が暖かくなる。ふいに、最初に会った時のことが胸に蘇ってきた。
我が主はうちと対決した時、「女の人を殴れないよ」って言ってくれた。魔物のうちのことを、人として見てくれた。あの人みたいに。本当はあの時から、ケントを我が主と決めていたのかもしれない。
きっと、我が主があんなに温かいのは、ムオイですら受け入れる優しさがあるからだ。その優しさは魔物と戦う上で、足元をすくわれかねないほどの甘さなのかもしれない。甘さは弱みだから……。それでも……。
我が主が「甘い」から温かいなら。
――それならうちが我が主を、その弱さごと守る。だからうちだけは、ムオイに気を許したりはしない
うちはそう心に誓って、樹からふわりと飛び降りた。
『我が主。うちを呼びに来てくださったのですね! さ、まいりましょう!』と腕にギュッと抱きつく。
魅了したりはしないけれど、我が主がドギマギするのが可愛くて、うちはもっとぎゅーっと抱きついた。
――いつか一番にうちを見て!
5章終わり
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