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スレイの人差し指と中指がピタリとオレの額を押さえる。小声で何かを唱え始めた。片目だけあけて様子を見ると、スレイの腰まである長い髪がふわっと浮き上がった。胸のあたりがポウッと赤く光ると、ファッと風がオレの顔にぶつかってきた。
「うわあっ……!」
オレは二、三歩後ろによろけ、ドスンッと音を立てて尻餅をついてしまった。
「ここ、カンボジア。アンコール遺跡のうちのひとつ、タプロームだよ。わたし、スレイ!」
「は?」
「あなた、ケント?」
「ハァアッ!」
――な、なんだ、この子? いきなり日本語習得しちゃったとか? いや、違う。スレイはさっきと同じ言葉を使っている。なのにオレも意味がわかる。なんで?
「なんっ、こっ、タ、タプローム?」
「わたしのこと、ナニッて聞こうとした? わたし、人間。ここ、タ・プローム。あなた、ここに連れてきた、この子。「クルン」だよ」と言って鳥を指さした。
スレイの隣には、大きな鳥がいた。尾羽をクルンッと頭の上に持ってきている。
――ああ、だからクルンッっていう名前……。いやいや、そんなことどうでもいいだろ
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