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「お、おう。苔ですべった」  斜めに傾いている石に、亮が足を滑らせた跡が白く残ってるのは、苔が削れたせいだ。雪に最初に足跡を付けて歩くみたいに、オレたちの通った跡がくっきりと残ってる。削れた苔から、湿った緑っぽいにおいが、ツンと立ち上ってきた。 「ツルツル滑るよな。ほら」と亮に手を伸ばすと、オレの手を掴んで、今度は身軽にひょいと石のてっぺんに登った。 「けっこう似合ってるじゃん」  長袖の薄いシャツにアリババパンツを着た亮を指さすと、「お前もなっ!」と、亮がヒヒッと照れ笑いして返してきた。タプロームで過ごした数日で、オレたちはアリババパンツにもすっかり慣れていた。  石の上から見渡すと、人の手が入っていない樹々がのびのびと茂っている。排気ガスなんかで汚れてないまっさらな風が、オレの髪をふわふわ撫でていく。緑の葉が揺れて、蛇神ナーガの石像がチラッと見える。ナーガを操っていた欠片……ムオイが、オレの手に入ってるんだなと思うと、ここがただの遺跡じゃないって、気持ちがシャンとなった。
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