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オレはため息を飲み込み、思い切って足を下に伸ばした。やっぱり地面に足は着かない。
――待てよ。中に入ったら、どうやって出たらいいんだろ……?
「あの、ちょっと待っ……」
一度仕切りなおそうと思って体を上に引き上げようとした時、顔の周りを何かが飛び回った。蚊なんかよりずっと大きい。思わずブルブル顔を振ったら、手が滑った。
「ああああああ~! 痛ってー!」
華麗に着地するはずが、みっともなく尻もちをついてしまった。タ・プロームに来てから、落っこちてばっかりだ。オレを落とした犯人が顔の周りを飛び回っている。上下左右に飛ぶこの感じは……。
「あー、コウモリ君か!」
仏像の欠片が刺さっていたコウモリは、目が覚めてからも逃げていかなかった。スレイに懐いて、片時も離れなくなってしまったんだ。今日はスレイが斜めがけにしている鞄の中に入っていたはずだ。オレが遺跡になかなか入らなかったから、じれったくなって飛び出してきたんだろう。
「暗闇はコウモリ君のホームだもんな」
そういうと、石でふさがった入口からわずかに入り込む光をバックに、コウモリ君が得意げに羽を広げるのが見えた。
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