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 くるっと回れ右すると、手首を引かれた。引かれた方の手をみると、気根が巻き付いている。先ほどまでの凶悪さは鳴りを潜め、やわらかな蔓となってオレを引き留めている。 「え……」  樹を見上げると、コン・ティンが樹に道を開いた時のように、枝から垂れ下がっている気根が揺れて、左右に分かれた。気根に導かれるまま、樹の中に足を踏み入れる。 「ここが樹の中……?」  虹色にかがやく光の粒がふわふわと舞っている。足元には下草が生え、柔らかな絨毯みたいだ。無性に裸足になりたくなって、スニーカーを脱いだ。思った通り、柔らかでくすぐったくて、気持ちいい。ヒノキのお風呂みたいにいい匂いがする。 ――まるでちょうどいい温度のお風呂に顎下まで浸かってるみたいだ……  樹の外では、みんなが心配してオレを待っているだろう。だからくつろいでいる場合じゃないのに……気持ち良すぎて立っていられない。ムオイはあっさり誘惑に負けて、寝ちゃったみたいだ。なんの気配も感じないし、気根と戦っていた時の、細胞が目覚めたみたいな感じも消え失せている。  トスっ……。
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