71人が本棚に入れています
本棚に追加
光の人は美しかった。あの光はデバターの心だ。純粋な思いで何百年もアムリタを守ってきたんだ。そう思うと、胸がキューッと痛くなる。
「わっ! ケント、泣いてんの?」
「え……?」
亮の声にハッとして、頬を手の甲でゴシゴシこすったら濡れていた。
――オレ、泣いてたのか。
「ケント、大丈夫?」
『我が主。うちの胸をお貸ししましょうか?』
「ダメー!」
スレイが叫んだ。
「わたしの……」と、言いかけて、自分のペタンコ胸と、コン・ティンが自慢気にツンと突き出している胸とを見比べて、スレイは唇を「むぅー」と突き出した。
つられて見てしまったスレイの胸は、もう赤く光っていなかった。スレイの中のデバターは残滓が消えたことでまた眠りについたのだろう。
「ははっ!」
ホッとしたのとスレイのむくれた顔がかわいくて、オレは笑ってしまった。
「おいっ! 笑ってる場合じゃないぞ。早く脱出しようぜ」
亮はもう猶予はないというように、気根が垂れ下がっている出口に向かって走り出した。幹がミシミシ悲鳴をあげている。折れた幹の隙間から、パラパラと砕けた石が降ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!