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「お姉さんは女王様なの?」
少女は目の前に立つ美しい女性に尋ねた。
「ここには王様も女王様も居ないわ」
「ここには魔女が住んでるって……」
微笑んだ女性に、少女はおずおずと尋ねた。
「魔女ではないわ。でも異形のものではあるわよ」
言うやバサリと音を立て、ムーンストーンのドレスとは対極に、黒く艶めいた蝙蝠の翼を広げた。そして額に開いた三つ目の瞳が少女を見ていた。
「私を……食べるの?」
少女は一歩後ずさったが、その瞳は絶望よりも期待に輝いているようだった。
「異形のものは人を食べないわ。あなたの夢は、なに?」
「……いなくなりたい。お姉さんになら食べられてもいい」
「魔女よりはマシ? そうね。でもそれは夢ではないでしょ。あなたがいつも夜を怖がらずに眠れる夢はなに?」
目を左右に揺らせて言いよどんむ少女に、異形のものはさらに言った。
「私は笑わないわよ」
「お姫様……。お姫様になりたい」
「それは私みたいでもいいのかしら?」
「ここで暮らせる?」
頷き請うような少女の言葉に、異形のものは膝を折って視線を合わせた。
「それじゃあ五年。あと五年、あっちで生きて。自分の居場所が本当にないか。自分の力で何かできないか。しっかりと見極めて」
異形のものは少女の手を包み込んだ。
「五年後に、またここへ招待するわ。その時に答えを聞かせて」
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