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 少女は顔を輝かせて大きく頷くと、頭を傾げてなにか言いたそうにした。 「どうしたの?」 「お姫様は、ずっとここにいるの?」 「そうね。何百年もここにいるわ」 「ひとり?」 「そうよ。でも寂しくはないわ。アルタンティスには、たっくさんの仲間がいるんだもの」  頭を撫でられたアークトゥルスが、目を細めて喉を鳴らした。 「それに私はお姫様なんだから」  腰に手を当て翼を軽く羽ばたかせると、ウインクする異形のもの(カトゥルー)。それを見て少女は満面の笑みを浮かべた。 「さ。じゃあ戻って修業してきて。私のことを話したら、約束は無し。いい?」 「怖い魔女だと思われてていいの?」 「その方が、みんな幸せなのよ」  脇を抱え上げられ、少女はアークトゥルスの背に乗せられた。アークトゥルスが翼を広げフワリと浮き上がると少女は叫んだ。 「お姫様の名前は?」 「スピカよ!」 「スピカ姫様、ありがとう!」  バルコニーから飛び出したアークトゥルスの背で、少女は元気に手を振った。  スピカは空に溶けていった姿をいつまでも見守っていた。それは幾度となく繰り返された光景だった。そしてここに戻って来た者はいない。水晶鏡(クリスタル)を見ていれば、呼ぶ必要がなくなるのはわかる。人は誰しも生まれ変われるチャンスがある。生きる場所を見つけてもらえたら、それが一番うれしい。スピカは毎回、それこそが自分がここにいる存在意義なのだと思えた。  国境のスピカ。それは人知れぬアルタンティスのお姫様の物語。 〈Fin〉
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